映画「NO SOMOKING」公式サイト » INTRODUCTION

稀代の音楽家・細野晴臣
待望のドキュメンタリー映画ついに完成!

 日本のロックミュージックの黎明期を象徴する伝説のバンド「はっぴいえんど」、テクノというジャンルを生み出し、世界中の音楽ファンに衝撃を与えた「Yellow Magic Orchestra」の中心メンバーとして活動。80年代には松田聖子、中森明菜などの楽曲を手がけ、90年代以降は先鋭的なミニマルテクノ、アンビエント、エレクトロニカに傾倒。さらに00年代からは自身のルーツである20世紀半ばのポップミュージックに回帰し、一方でカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『万引き家族』のサウンドトラックをはじめとする劇伴作家としても知られる。ひとつのジャンルに留まることなく、常に変化を繰り返し、斬新にして普遍的な音楽を創造し続けている細野晴臣。稀代の音楽家である彼の50周年を記念して制作されたのが、ドキュメンタリー映画『NO SMOKING ノースモーキング』だ。監督は佐渡岳利。NHKエンタープライズのエグゼクティブプロデューサーとして「NHK紅白歌合戦」「MUSIC JAPAN」「スコラ坂本龍一 音楽の学校」「岩井俊二のMOVIEラボ」「Eダンスアカデミー」などの制作に携わり、2015年に公開されたPerfumeのドキュメンタリー映画「WE ARE Perfume WORLD TOUR 3rd DOCUMENT」の監督もつとめた映像作家だ。

はっぴいえんどの結成秘話、YMOの爆発的な
ブレイク、その刺激的な変遷に迫る

 細野の半生を振り返りながら、50年に及ぶ音楽活動の軌跡を追体験できる本作。音楽好きなモダンガールだった母親、英語が堪能でダンサーになりたかったという父親のもと、海外のポピュラー音楽に親しんでいた幼少期。大瀧詠一、松本隆、鈴木茂との出会いとはっぴいえんどの結成秘話。ソロ第1作「HOSONO HOUSE」からエキゾチック音楽への移行、そして「Rydeen」のヒットをきっかけにしたYMOの爆発的なブレイク。さらにアンビエントからワールドミュージックまでを網羅する幅広い音楽性、ヒット曲を数多く生み出した作曲家としてのキャリア、映画『銀河鉄道の夜』などから始まった劇伴作家としての側面などを、それぞれの時期の記録映像と細野のインタビューとともに辿っている。決まったスタイルに拘らず、常に新しいサウンドを求め、その音楽性を大きく広げてきた細野。その刺激的な変遷を再確認できることこそが、本作の核だろう。

「あとは、よろしく」、星野源との強い絆、
幻の中華街ライブも収録

 ここ数年の活動にもカメラが密着。特に2018年から2019年にかけて開催されたワールドツアーのライブ、楽屋での様子を捉えた映像はきわめて貴重だ。10年代以降の細野の音楽活動を支えているバンドメンバー高田漣、伊賀航、伊藤大地、野村卓史との豊潤な演奏——「自由にふれると、心が躍る」という細野の言葉も印象的だ——やリラックスした談笑の場面。ロンドン公演には高橋幸宏、小山田圭吾が参加したほか、坂本龍一も飛び入りで出演しており、約5年ぶりに揃ったYMOメンバーによる「Absolute Ego Dance」の演奏も収められている。

 また、国内外の様々なミュージシャン、クリエイターとの交流も興味深い。はっぴいえんどのラストアルバム「HAPPY END」のプロデューサーであり、アメリカのポピュラー音楽史にその名を刻むヴァン・ダイク・パークス。細野のソロ曲「Honey Moon」をカバーしたカナダ出身のシンガーソングライター、マック・デマルコ。彼らと楽しそうに話す細野の姿からは、国境や年齢を超えた人々とつながり、刺激を受けながら、自らの音楽性を進化させ続けてきた細野のスタンスを感じ取ることができる。

 細野のライブグッズをデザインしたこともある水原希子、水原佑果をはじめ、若い世代への影響もきわめて大きい。特筆すべきは、この映画のナレーションを担当している星野源との交流だろう。以前から細野の音楽に影響を受けていることを公言している星野。本作には星野のラジオ番組に細野が出演したときの様子や2人の共演が実現した横浜・中華街でのライブ「細野晴臣 A Night in Chinatown」の映像も収められており、両者の強いつながりを実感できる。

お笑い大好き、自由で軽やか、少し照れ屋
「楽しいことがやりたい、
音楽好きがいてくれれば大丈夫」

 本作の音楽を手がけているのは、もちろん細野自身。YMO時代の楽曲(「Firecracker」「Cue」など)、2005年に埼玉県狭山市で行われたイベント「Hyde Park Music Festival 2005」での演奏(「ろっか・ばい・まい・べいびい」など)、キャリアを象徴する楽曲も数多く使用され、音楽家としての魅力を再発見できるはずだ。

 もうひとつ記しておきたいのは、全編を通し、細野の人間的な魅力がたっぷりと感じられること。コメディやお笑いが好きで、深刻になることを嫌う細野は、この映画のなかでも茶目っ気たっぷりの表情を見せている(タバコが吸える場所を探してウロウロしたり、YMOのメンバーと一緒に“火星歩行”を披露したり)。日本の音楽史を代表するミュージシャンであり、その影響は計り知れないが──そのキャリアを追えば、日本のポップスの歴史がわかると言っても過言ではない——彼には“大御所”や“重鎮”といった言葉は似合わない。どこまでも軽やかで、いつまでも自由、そして少し照れ屋。そんな佇まいこそが細野の魅力であり、彼の本質なのだと思う。

(文/森朋之 音楽ライター)